4階病棟/松森美和

 我が家は、今年44歳になる夫ともう少しだけ若い私、それに3匹の猫で構成しています。元々猫は2匹でしたが、忘れもしない、一昨年の7月7日、3匹目の猫がやってきました。七夕なのに、土砂降りで、にもかかわらず友人と飲みに出ていた私の元に、夫から連絡がありました。何かと思えば、ずぶ濡れの子猫を手のひらに乗せた、やっぱりずぶ濡れの夫が写真を送ってきたのです。「どうしよう。死にそう」困った様子で、要するに夫は「見捨てられないので3匹目を飼いたい」という趣旨の話がしたかったようです。確かに、土砂降りのなか、元あったところに返してしまえば、簡単になくなってしまうような、か弱い、心細い様子に見えました。片方の手のひらの上におさまるサイズの小さな命は、一生懸命声をあげて生きようとしていました。こうして、我が家の一員に末っ子が加わりました。

 子猫はオスで、まだ十分に目も見えていない様子でした。元々我が家に暮らしていた先輩猫は、2匹ともノルウェージャン・フォレストキャット(意味はノルウェーの森の妖精、だそうです)という種類の猫で、かなり大きく育つ種です。体重が7~9kgもあり、中型犬程の大きさがあります。この子達にかかってしまえば、小さな末っ子はひとたまりもないと思われました。また、外からやってきた末っ子は、屋外に一歩も出たことのない2匹に病気やノミを移す可能性もあり、当初は隔離が必要でした。専用の檻の中にお母さん代わりの毛布と一緒におさまってもらうことにしました。

 あっという間に大きくなって、彼が我が家の一員になってから半年が経過したころ、去勢の手術を受け、ノミの駆除も終了しました。お互い他害のおそれがなくなったので、檻の外の世界に慣れてもらうために、少しずつ隔離の時間を短くしていきました。檻の外の世界は刺激がいっぱいです。好奇心旺盛な子猫が毎日家の中でやんちゃをし、その度に隔離される、ということを繰り返しながら、行動範囲を広げていきました。今では、我が家の主のように、家中を堂々と闊歩しています。すっかり我が家のムードメーカーになった末っ子は、いわゆる雑種です。先輩猫達とは全く異なる風貌ですが、大きい種の中で育ったからか、若干同じ年頃の猫より大きめです。このままどこまで成長するか楽しみです。

 今年ももう7月になりました。この季節が来ると、あの土砂降りの七夕に、ずぶ濡れで途方にくれていた子猫と夫を思い出します。これ以上は飼えないので、もうずぶ濡れの子猫を発見しないで欲しいと願ってやみません。



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